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福岡高等裁判所 昭和26年(う)2283号 判決

控訴人 被告人 金光一

弁護人 諌山博

検察官 藤井勝三関与

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人諌山博の控訴趣意は同人の提出した控訴趣意書に記載するとおりであるから、ここにこれを引用する。

控訴趣意第二点について。

公判準備における裁判所の検証に立会つた被告人の供述を録取した検証調書は刑事訴訟法第三百二十二条第二項の書面に該当するものであるから、その供述が任意にされたものであると認めるときに限りこれを証拠とすることができることは同項の規定によつて明である。所論の検証調書中の被告人の供述記載部分は、原審が公判準備においてなした検証の際これに立会つた被告人が実地を指示して供述した事項を録取したものであつて、その供述は弁護人立会の下に任意になされたことは同検証調書の記載自体によつてこれをうかごうに充分であるから、該検証調書中に被告人の署名押印がなくても、同調書に録取した被告人の供述は証拠能力を有すること勿論であつて、論旨は理由がない。

同第一点について。

原審の検証及び証人尋問調書中の証人古賀嘉紹の供述記載によれば古賀嘉紹は被告人とつかみ合つたまま墜落して後他の労務者十名位から背中、襟首、肩等をつかまれたというのであるが、被告人以外の者が古賀の顔面に暴行を加えた事実を認むべき証拠は存在しない。従つて古賀の右上頤中切歯動搖が被告人以外の者の暴行によるものとは認められない。原判決援用の各証拠によれば、被告人は右手拳を以て古賀の唇附近を殴打し、且つそのため両名はつかみ合つてもみ合う内古賀が被告人の上になつて両名折重つて約一米余の低地に墜落したのであるから、その墜落したことも被告人の右暴行によるものといわねばならない。しかも古賀の右上頤中切歯動搖は被告人から手拳で唇附近を殴打されたためかそれとも右墜落の際の衝撃によるものか、それのいづれかの原因によるものと認められるから、いづれにしても被告人の暴行に基因する傷害といわねばならない。それ故原判決にはこの点について所論のような審理不尽の違法はないから論旨は理由がない。

同第三点について。

訴訟記録に現われた本件犯行の動機、態様、その他諸般の犯情を考え合わせると、原判決の量刑はまことにやむを得ないものと認められるので本論旨も理由がない。

よつて刑事訴訟法第三百九十六条、第百八十一条第一項に則つて主文のとおり判決する。

(裁判長判事 谷本寛 判事 竹下利之右衛門 判事 青木亮忠)

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